大阪高等裁判所 平成9年(ネ)1276号 判決 1997年11月25日
控訴人
甲野太郎
右訴訟代理人弁護士
池田直樹
被控訴人
光洋精工株式会社
右代表者代表取締役
井上博司
右訴訟代理人弁護士
門間進
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求める裁判
一 控訴人
1 原判決を取消す。
2 被控訴人は控訴人に対し、三〇八万二九四〇円及びこれに対する平成七年五月二〇日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は第一、二審を通じて全部被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文同旨
第二当事者の主張
当事者の主張は原判決が事案の概要として摘示するとおりであるから、これを引用する。
第三証拠
原審及び当審訴訟記録中の証拠関係各目録記載のとおりであるから、これを引用する。
第四判断
当裁判所も控訴人の本件請求は理由がなく、これを棄却すべきものと判断するが、その理由は次のとおり付加するほかは、原判決が説示するとおりであるから、これを引用する。
控訴人の主張は、被控訴人の人事考課が裁量権を逸脱・濫用しているというものであるが、人事考課は、労働者の保有する労働能力(個々の業務に関する知識、技能、経験)、実際の業務の成績(仕事の正確さ、達成度)、その他の多種の要素を総合判断するもので、その評価も一義的に定量判断が可能なわけではないため、裁量が大きく働くものであり、組合間差別の不当労働行為のように大量観察を行うことにより有意の較差が存在することによって人事考課に違法な点があることを推認できる場合は別として、個々の労働者についてこれを適確に立証するのは著しく困難な面があることはいうまでもない。さらに、本件において控訴人の主張する人事考課の違法は、昭和五七年一〇月一日の一般職員への職能資格給導入時点に遡り、平成七年の退職時までの長期間にわたるもので、前記の人事考課の性質からいって、個々の人事考課がなされた根拠を後日明らかにするのはかなりの困難を伴うものであるし(人事考課担当者の証言が多少曖昧であったとしても、前記の人事考課の性質からいえばやむを得ないことであって、このことから直ちに人事考課が不当になされたと認められるものではない。)、他方、当時自分は成績優秀であったと人事考課の対象であった労働者が述べても、それ自体の証拠価値は極めて乏しいといわざるを得ない場合が多いのであって、人事考課の適否を巡る立証には難しい点があることは否定できない。しかし、いずれにしても、人事考課をするに当たり、評価の前提となった事実について誤認があるとか、動機において不当なものがあったとか、重要視すべき事項を殊更に無視し、それほど重要でもない事項を強調するとか等により、評価が合理性を欠き、社会通念上著しく妥当を欠くと認められない限り、これを違法とすることはできないというべきであるが、本件においては、各証拠によるもこれらの事情が存在したと認めることはできない。
第五結論
よって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 福富昌昭 裁判官 古川正孝 裁判官 富川照雄)